[おうし座の神話その1]
大神・ゼウスは様々な動物に姿を変えて、美しい女性たちの元を訪れることがしばしばあります。
エウロパ(エウローぺ)はフェニキア王・アゲノールの娘で、その美しさの噂は、天上の神々にまで伝わっていました。
ある春の日、エウロパは野原で遊んでいましたが、天上からこれを認めたゼウスは、その美しさに引かれて、1頭の大きな白い牛に姿を変えてエウロパの元に近づいていきました。
エウロパの傍にうずくまり、エウロパが撫でていても逃げるそぶりも暴れる気配もあ りません。それどころか、牡牛は背に乗って欲しいような素振りを見せます。エウロパも、ついつい気を許してしまい、面白半分でその背に乗りました。その途端、牡牛は身を起こし、走り始めました。
エウロパは必死に牡牛の角にしがみついて、助けを求めます。しかし、侍女達も突然の出来事だったので、うろたえるばかりです。
牡牛は、まるで地をかけているように海を泳ぎ、やがては大海を渡って陸地にたどり着きました。
人影もない海なのに、牡牛の周りにはイルカの群れやニンフ(妖精)達の列が後に続き、人魚達は楽しげに歌っていました。
そこで、牡牛は大神・ゼウスの姿を現しました。
自分の住んでいた国からは随分と離れてしまい、悲しんでいるエウロパを慰め、ゼウスはその美しさを称えるとともに、胸のうちを語ったと伝えられています。
このゼウスが姿を変えた牛の姿が、冬の夜空に輝く、おうし座として描かれていますが、この時たどり着いた大陸が、エウロパの名前から「ヨーロッパ」と呼ばれるようになったとも言われています。
[おうし座の神話その2]
ギリシャ神話にまつわるおうし座の物語は、もうひとつ伝わっているものがあります。
それは、川の神イナコスの娘・イオが牛の姿に変えられてしまったという物語です。
イオは大神・ゼウスの妻であるヘラ(へーラー)の神殿に仕えていた女性ですが、やはり大変美しい女性でした。
イオはゼウスの目にとまり愛されることになります。
妻であるヘラはこれに気づき、イオを1頭の牛の姿に変えてしまいます。(または、ヘラに浮気現場を突き止められるのを誤魔化すために、ゼウスによって変身させられたとも言われています)
牛の姿に変えられたイオは牛舎の中に閉じ込められ、ゼウスと会うことがないようにと、ヘラはアルゴスに監視を命じました。
アルゴスとは、体中に目が100もあり、そのうちの2つは昼も夜も眠らないという怪物です。
さすがに大神ゼウスといえども、牡牛を密かに連れ出すこともできず、困り果ててしまいました。
そこで、イオの父親であるイナコスを呼び、牛の姿に変えられてしまったイオを是非とも救い出すように命じます。
イナコスが牛舎に行ってみると、どれも同じような牛ばかりで、一体どの牛がイオなのか分かりません。
その上、牛舎の中にはアルゴスが見張りをしていて、どうする事もできません。
イナコスが困っていると1頭の牝牛が近づいてきて、足を使って地面に「イオ」と書きました。
イナコスは、その牡牛が自分の娘のイオであるとわかると、その首を抱きながら嘆き悲しみました。
ゼウスは、昼も夜も苦しめられている牡牛を哀れに思ってはみても、妻のヘラの仕業とあ っては、自分ではどうすることもできません。そこで、伝令の神ヘルメスを羊飼いに化けさせ、忍び込み、イオを救い出すように命じます。
「アルゴスさん、たまには一眠りしたらどうですか?見張り番は、私が代わってあげますので・・・」
ヘルメスが化けた羊飼いの親切な申し出に、アルゴスは眠り始めたましたが、2つの目だけはちゃんと開いていて、キョロキョロ辺りを見回していました。
ヘルメスは困った様子もなく、ひとつの笛を取り出します。
この笛は眠りの神・ヒュプノスが作った笛で、その音色を聴くとどんなものでも眠りにつかせてしまうというものです。
この笛によって、起きている目も眠らせることに成功します。
イオは牛の姿のままヘルメスに救い出され、イナコスの元に送り届けてもらいました。
それでも、ヘラの嫉妬は納まらず、牡牛のイオの元へアブをまとわりつかせました。
牛のまわりによくアブがいるのは、ヘラのせいだと言われています。
もちろんイオはこの後、大神ゼウスにより元の人間の姿に戻され、牛の姿は星空に上げられることになりました。